CVC Asia Pacific シニアエグゼクティブ/東洋学園大学客員教授 −添田 眞峰
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モデルを用いた経済性の検証
前回は経済性の判断について説明した。
今回は 「モデルを用いた経済性の検証」 について紹介する。
【モデルを用いた経済性の検証】
経済性を検証するモデルは、LBOモデル(Levaraged Buy Out)である。事業
計画で損益計画のメインシナリオが取りあえず確定し、買収価格が決まり、
買収借入の条件が決まると、IRRを求めるために必要な変数はエグジット
マルティプルだけである。
投資を判断するに当たり、エグジットマルティプルは魔法のようなものである。
IRRの計算では、マルティプルを 1動かすことにより、数%の収益率の違いが
出る。マルティプルは、遠い将来の市場環境の恣意的な予想である。ヘッジ
ファンドにはマクロ経済環境の変動を見越して、底値で投資して、高値で売り
抜けることを目指す投資家もいる。この投資手法はマクロ環境や地政学的な
環境を調査して、中期的な変動に収益機会を見出す手法である。情報網と
ネットワークを張り巡らせ、 ときには、市場を揺さぶりながら、 変動に賭ける
のである。したがって、マルティプルの変動の予想が投資判断の中心に据え
られる。
これとは異なり、PEの投資スタイルは、できる限り公開市場の動きに左右
されない事業に投資し、キャッシュフローの創造とレバレッジ効果によって、
投資収益を上げようという投資手法である。したがって、PEの経済判断では
恣意的な操作や予想を極力排し、本来の投資スタイルであるキャッシュフロー
の創造とレバレッジの仕組みによって、どれだけ投資利回りを上げられるかを
検証することが基本になる。すなわち、PE投資においては、IRR経済計算の
前提としてのエグジットマルティプルは、エントリーマルティプルと同じ数字を
使い、投資期間のキャッシュフローの向上とレバレッジ効果により、どれだけ
企業価値の創造が可能かを測るのである。
▼総合的な判断の必要性
経済性のテストを行なう目的は、投資判断の過程を総合的な見地から再度
見直し、個々に積み上げてきた判断が総体として妥当な判断であったかに
つき、確信を形成するプロセスである。もしIRRが満足する水準に達しない
場合、投資対象事業にさらなる価値を生み出せる余力がないかを事業計画
に戻って検討し、IRRが満足な水準に至らない原因を多面的に検証し直す
のである。
IRRはあくまでもモデルがはじき出した数字であり、それ自体が意味ある
ものではない。仮定の積み上げから生まれるシンボルに過ぎないが、数字
は一人歩きして、数字だけが判断の基準となる可能性がある。取引条件や
仕組み、投資収益率などを繰り返し検証しながら、IRRの背後にあるリスク、
すなわち経営資源や経営環境、さらに、事業計画と経営者の評価、経営者
のコミットメント等を総合的に評価し、投資案件の価値が下に振れるリスク
と、上に振れる可能性とを比較考量するのである。検討の最終段階では、
IRRの数字が数%足りないからといって、経済性に合わないという判断には
ならない。むしろ、経営者の能力と価値創造の原理に確信を持てるか否か
を見極めるのである。
最後は、関わっている経営者、経営チームを信頼し、共同で投資プロジェクト
を進める気持ちが形成できるかが、投資を進める判断の決め手になるので
ある。
今回は 「モデルを用いた経済性の検証、総合的な判断の必要性」
に
ついて説明した。次回は企業再生投資の投資判断に必要な観点について
説明する。
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この講座は、著書「プライベートエクィティ投資」の要約を掲載
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