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第18回 PEファンドの実務〜経営者の雇用契約とインセンティブストラクチャー〜

CVC Asia Pacific シニアエグゼクティブ/東洋学園大学客員教授 −添田 眞峰

 ▼経営者の雇用契約とインセンティブストラクチャー

 前回は買収借入契約について説明した。
 今回は 「経営者の雇用契約とインセンティブストラクチャー」 について
 説明する。


 【経営者の雇用契約とインセンティブストラクチャー】

 前回は買収借入契約のポイントについて述べた。
 投資ファンドは投資価値を最大にするための仕組みを作る専門家の
 ため、買収借入契約後は、実際に運営するのは経営者である。
 そのため第18回では、経営者の雇用契約について述べたいと思う。

 投資ファンドは機関投資家や個人の富裕層から資金を預かり事業に
 投資することで投資利益を上げることを目的に組成されている。
 いかに潜在的な価値を生み出す素材を見つけ出し、付加価値をつけ
 て投資利益を実現するかが投資ファンドの機能である。

 投資ファンドのパートナーやスタッフは目利きの専門家であり、また、
 投資価値を創造するための原理や仕組みを作り上げる専門家である
 が、事業を経営する専門家ではない。
 実際に企業の価値を創造するのは経営者であり、従業員なのである。
 従って投資ファンドは内部経営者か外部経営者であるかを問わず経
 営者に企業の運営を委託しなければならない。

 運営を委託するに当たっては、投資ファンド自らがDDにより投資対象
 事業の潜在的な価値を検証するとともに、経営者の描く株主価値の
 創造シナリオと符合させながら、投資の可否を判断していくことになる。
 つまり、内部の経営者を起用するにしろ、外部から経営者を起用する
 にしろ、投資ファンドは経営者が描いた事業計画に乗り、経営者の能
 力や意欲に期待して、経営者や起業家のパートナーとして創造された
 株主価値を享受するのである。

 欧米では取締役会が選任した経営者と会社との間で雇用契約が締
 結される慣行があるが、日本では取締役会が経営者に経営を委嘱
 するとき、会社と経営者の間に雇用契約が締結される慣行はない。

 日本で行われてきたベンチャーキャピタル投資は主に取締役会を通
 じた経営者の解任権や選任権により経営者への委嘱をコントロール
 してきた。
 これに対し、PEの投資手法は契約により目標と役割、対価と報酬を
 明確にする。
 即ち、事業計画をプロジェクトとして捉え、経営者や起業家・経営者を
 事業計画の期間中その目的を実現するために雇用し、経営者が事業
 計画にコミットメントすることで、計画目標の達成度に応じた成功報酬
 を受け取る仕組みを投資契約や雇用契約で確認するのである。

 これは、西欧における契約と個人の信頼をベースとした事業組織、
 パートナーシップの伝統である。
 日本的な曖昧な委嘱ではなく、個人のコミットと報酬を明確にすること
 により目標を達成する力を引き出そうという考え方なのである。

 経営者の解雇に関して、日本でバイアウトを進める際には、経営者は、
 まず営業成績次第で投資ファンドから簡単に解雇されるのではないか
 という危惧を抱く。これが一大関心事である。
 一方、欧米の経営者にとっては成功に対する対価の水準が何より関
 心事である。

 日本と欧米では会社に対する考え方や報酬のあり方が異なるのでこ
 うした感覚の差が出るのも当然ではあろう。
 特にMBOを実行する経営者から見れば株式取得でリスク負担もし、
 自ら会社のオーナーになったのに何故、投資家から簡単に解雇され
 なければならないのかという思いが強いのである。

 不慣れなアドバイザーもこの点に焦点を当ててアドバイスするので、
 感情がもつれ合い、雇用条件が取引不成立の要因となることも多い。
 日本でMBOがなかなか活発にならないのは、経営者が持つこのメン
 タリティによると思われる。
 このために、日本ではMBOよりも投資ファンドが自らのリスク負担で
 企業を買収して外部から経営者を送り込むパターンや、破綻した会社
 の企業再生が主流になっているともいえる。

 経営者の解雇条件は一般に事業計画でコミットした企業価値の創造
 が予定通り進捗しない場合である。
 考えてみれば、株式会社の原理では株主と取締役会、取締役会と
 経営者の間には委託と受託あるいは雇用と被雇用の関係があり、
 常にある条件で委任や雇用を解除することができる。
 これは近代社会における経済活動の基本原則である。

 欧米では経営者と株主は企業の支配をめぐる戦いを繰り広げてきた。
 一方、日本では戦後株式の持ち合い制度により経営者は株主でも
 ないのに、あたかも企業の支配者として振舞うような状況が一般化
 している。
 こうした、日本的な慣習の中で育った経営者は、投資ファンドとの雇用
 契約の中に解雇条件を見ただけでしり込みする感覚を作り出している
 のである。
 思うに、解雇条件はある意味では伝家の宝刀である。
 つまり抜かないところに意味があるし、抜けば人心を惑わす妖剣となる。

 日本で成功した本当の意味でのMBOは数少ないが、成功している
 経営者には多少の業績の振れで投資ファンドが宝刀を抜けないリーダー
 シップがある。投資ファンドが伝家の宝刀を抜けば、さらに会社は混乱し
 企業価値は落ちるからである。

 日本の商法では、私的な契約があったとしても現実の問題としては
 取締役の任期満了前解雇はできないので、実質的にも新任取締役
 の任期1年プラス2年の期間は実際のところ解任は難しいわけである。
 これでも解任を強行しようとすれば企業価値が毀損するだけであり、
 投資家にとって何のメリットもない。

 欧米でのバイアウト取引でも、経験のある投資ファンドの考え方は
 変わらない。
 誰も容易に経営者の首を挿げ替えることがよいとは思っていない。
 しかし、経営者側が高いインセンティブ報酬を求めれば求めるほど、
 これに見合っ投資ファンド側の経営者の解雇条件は厳しくなってきた
 のである。
 ある種、経営者と投資ファンドの富の配分をめぐるゲームなのである。

 この現実を踏まえてどのような契約にするかを考えなければならない。
 一般には「期待した成果を上げられないとき」が解雇の条件である。
 短い言葉であるが、そもそもお互いに信頼できないのであればバイ
 アウトは成立しないと考えるべきなのだ。

 では、インセンティブのストラクチャリングがどういう仕組みになっている
 かというと、経営者に与えられるインセンティブは、欧米のケースでは
 経営者が保有する株式に対しラチェットの仕組みによってキャピタル
 ゲインを上乗せすることで成功報酬を付与する方式が多い。

 ラチェットに関してはMBOの投資形態でより詳しく触れるが、
 要約すれば、
 1、予め要旨の実現価値や、パフォーマンスの達成基準を段階的に設定し、
 2、達成基準を超えるとそれに応じて投資ファンドの有する持ち株への
   財産配分比率を引き下げ、経営者の株式の財産配分比率を引き
   上げる方法である。

 日本ではラチェットの考え方を取り入れながら成功報酬型の新株引受権
 (“ストックオプション”)の付与によりインセンティブを与えることが一般的
 である。
 

 今回は 「雇用契約とインセンティブストラクチャー」 について説明した。
 次回は投資契約について述べたいと思う。


●ご注意●
この講座は、著書「プライベートエクィティ投資」の要約を掲載 していますので、
無断転載はご遠慮ください。


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