CVC Asia Pacific シニアエグゼクティブ/東洋学園大学客員教授 −添田 眞峰
▼その他のPE取引の仕組み・経営破綻企業への投資
前回は日本のバイアウト投資について説明した。
今回は 「経営破綻企業への投資」 について説明する。
【経営破綻企業への投資】
数回にわたり、バイアウト型投資の仕組みについて述べてきた。
今回からはその他のPE取引の仕組み(企業再生投資やVC投資)につい
て紹介していこう。
企業再生投資を述べる前に、破綻企業への投資の現実と、どのようにして
破綻企業に対する投資の市場ができたのかについて今回は述べたいと思
う。
<経営破綻企業への投資>
○破綻企業への投資の現実
業績不振企業、経営破綻の危機に瀕している企業を対象とした投資には、
バランスシートの再構築と事業の活性化の組み合わせによる企業価値の
向上によって投資価値の実現を図る手法と、バランスシートを分解しながら
売却した資産の価値から投資収益の実現を図る手法がある。
前者は企業再生型投資であり、後者は企業解体型投資、あるいは一般に
ハゲタカ型投資と呼ばれる投資手法である。
経営破綻先に瀕した企業の中にも、多くの優良な資産や優れた人材、潜
在的に価値を生み出せる事業が数多く残っている。これらが、清算される
のは、過去に作り上げてきた富を全て無に帰することであり、経済社会全体
の損失でもある。
企業再生型投資や企業解体型投資はいわば企業の残された良い部分を
回収するリサイクル投資であり、成熟経済には必ず必要な機能である。
再生という言葉は不死鳥のように復活するイメージで、美しい響きがあり、
再生に貢献すると謳えば社会奉仕や社会貢献のような意義のある仕事に
聞こえる。不死鳥のような復活は物語として人々の涙を誘うが、現実から
かけ離れているから感動を呼ぶのである。
しかし、実際の企業再生はそのような美しい物語とはまったく別の世界で
ある。経営資源が環境に適合せず、事業そのものも顧客のニーズに合う
製品やサービスを提供出来なくなり、さらに人的資源も疲弊している企業
をトータルとして復活させるのは絵空事といっても良い。
そういう企業に巨額の再建資金を出す株主がいるとすれば、社会慈善事
業家である。
倒産に伴う社会的影響を考えて破綻事業の救済を考えるのは政府の役割
であるが、かつては政府そのものが手を汚さず、銀行の護送船団システム
を使い全て救済しようと試みてかえって不良債権の山と社会的な非効率を
招いてしまったのである。
○アメリカで始まった破綻企業への投資
アメリカにおいて破綻企業への投資が盛んになったのは、1990年頃からで
ある。1980年代に隆盛を極めたLBOはその後半になると、エクイティ比率が
10%と極めてリスキーな取引が増えてきた。
これらの負債はシニアデットだけでなく、メザニンやジャンクボンドを組み合
わせた重層的なリスクの階層を作り、資金の出し手はそのリスク選考にあ
わせて、それぞれの負債に参加する。
負債のアレンジャーは調達のアレンジにより莫大なフィーを手にするのであ
る。
1987年10月のブラックマンデーを経て1988年頃からアメリカの景気は急激
に停滞していった。この頃から過度に負債を負ったLBO案件が次々と債務
不履行に陥り破綻に陥ったのである。
LBOに利用される負債は市場性の資金である。
リスクに応じたプレミアムを得て高い収益を期待するが、財務コベナンツが
達成されなければ回収の行動も速い。債務不履行を梃子に企業をコント
ロールし資金回収を計ろうとする。
一方、債務者は企業の主導権を確保すべくチャプター11による会社再生を
選択する。チャプター11の下で、各クラスの債権者、債務者が会社の支配
権と価値の配分を巡る交渉に突入するのである。
こうして、1990年頃から多くの過重債務企業を破綻処理しなければならない
状況が生じ、経営破綻企業に対する投資の市場が誕生したのである。
今回は 「経営破綻企業への投資」 について説明した。
次回は企業再生型投資について詳しく述べよう。
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この講座は、著書「プライベートエクィティ投資」の要約を掲載
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