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第17回 PEファンドの実務〜買収借入契約〜

CVC Asia Pacific シニアエグゼクティブ/東洋学園大学客員教授 −添田 眞峰


 ▼買収借入契約

 前回は担保としての資産価値について説明した。
 今回は 「買収借入契約」 について説明する。


 【買収借入契約】

 買収金融と買収借入契約の交渉では、企業の生み出すキャッシュ
 フローを借手と貸手がどのように分配するか、また、如何なるリスク状況に
 至った時、貸手と株主の企業に対する支配権が移転するかが焦点になる。

 日本の物的担保主義の金融では、債務不履行が発生すると貸出金の
 回収は主として不動産担保の売却により元本の回収が図られる。
 不動産価値は借入人が債務不履行を起こしても、そのことによって
 は影響を受けないので、債務不履行が生じた後に暫くしてから
 物的担保を処分しても比較的簡単に元本回収が可能である。
 それゆえ、個別に債務不履行の条件を貸付契約に詳細に盛り込む
 必要はない。
 さらに、日本では間接金融中心に金融市場が発達し、銀行の立場が
 相対的に強かったことから、債務不履行の条件は銀行に有利な定型の
 貸出契約や銀行取引約定書で定められていた。
 こういう事情で貸手と借手が負担しあうリスクの内容や、貸出し条件を
 詳細に交渉し、合意するという慣行はなかったのである。
 不動産担保金融や親会社保証に依存した貸付とは異なり、買収金融は
 企業が生み出すキャッシュフローだけを返済原資とし、企業価値そのものが
 担保である。

 企業価値とは企業の総資産の合計であるが、企業が有機体として
 キャッシュを継続的に生み出すからこそ高い時価がついている。
 もしキャッシュフローが低下しだすと企業価値はその低下を歩調を
 あわせて徐々に減価する速度を速め、債務不履行のリスクが高まる
 と減価の速度は一気に高まり、企業価値は清算価値に近い価格で
 評価されることになる。
 清算価値は通常の時価の何分の一の価値しかないので、貸手はこの
 段階までくると貸出金の回収確率は大きく元本を下回る。
 そこが買収金融の貸手のリスクである。
 こうしたリスクに対応するため、貸手は企業価値が毀損する兆候を
 常にモニターする。
 ある基準を下回り回収漏れのリスクが増大したと判断すれば、
 株主に企業の支配権移転を求め、企業価値の保全を図るとともに、
 売却等により元本の回収を計れる仕組みをあらかじめ作っておく
 のである。

 一方、借手の買収金融に対するニーズは、出来る限りリスクの
 負担を限定しながら、大きな金額を、経済的に安い条件で調達する
 ことである。
 このため、買収契約の交渉では、
 1、どのくらいの金額が何年間借りられるか、
 2、金利条件や手数料を加味したトータルとしての金融コスト、
 3、そして支配権の移転の条件としてどのような誓約(“コベナンツ”)
 と債務不履行の条件などが主要な関心点となる。

 買収金融に対する借手の上記ニーズ1・2・3を詳しく紹介していこう。
 買収借入契約のポイントは以下の通り。

 1、借入金額、借入期間
 借入金額、借入期間は、対象企業が生み出せるキャッシュフローの
 予測次第である。
 一般に、買収後、初期のキャッシュフローは低い水準であるのに
 対し、元本均等の返済条件であると初期には借入金残高が大きい
 ので、金利負担は嵩み、元利合計の要返済額は多くなる。
 このため、キャッシュフローから元利金を返済するのは厳しくなる。
 つまり、初期の時点でカバーレシオが満たされないのである。
 しかし、借手にとっては元利金返済合計額を均等にする返済方法や、
 初期時点から逓増的に元利返済を行う等の返済方法の工夫により、
 初期の返済負担を軽減できなければ、結果的に借入金総額が減少し、
 レバレッジ効果が薄くなりIRRに影響する。
 貸出期間は金融機関が取るリスクである。
 時間のリスクとは環境の変化により企業に発生するキャッシュフロー
 の変動リスクである。
 負債比率の高い企業ほど環境の変化に対する財務耐久性が低いが、
 買収金融の場合はあえて負債比率が高くなる会社に高い金利で
 貸出しを行う。
 従って、銀行は貸出期間におけるリスク残高の推移に特に関心を
 払わなければならないのである。
 つまり貸出額を平均返済額で除した平均回収期間が短い程リスクは
 少ないと考えるので、借入金の返済方法も借手との間の大きな
 争点となるのである。
 貸出期間や貸出金額は、一般に金融システムのリスク受容度による。
 景気が後退し、倒産が増える時期には銀行の貸出態度は慎重になり、
 結果として貸出金額は減少し、また貸出期間も短くなる。
 なぜなら、銀行はその多くを他銀行へのシンジケーションにより
 リスクを分散しようと考えるので、銀行全体のリスク受容度が
 貸出期間や貸出金額などを決める要因となるからである。
 一般には貸出期間は5年から7年の間であるが、その間の予想される
 キャッシュフローの構造と企業全体のリスクを評価して弾力的な
 貸出ストラクチャーを組み、より多くの金額を貸してくれる銀行を
 選択する必要がある。

 2、金利条件
 買収金融はリスクが高い金融なのでリスクに対応したスプレッドが
 上乗せされる。
 銀行は銀行内でリスク資産の格付を行い、リスクに応じた金利を
 付与するリスク収益管理を実施しているが、買収金融に関しては
 必ずしも行内ガイドラインは出来ていないので、個別に市場に
 リスク許容度をみて判断される。
 金利の水準もさることながら、買収後の経営改善によるリスク
 スプレッドの低下や借り換えのオプションを確保しておくことが
 重要である。
 金利のほかに、買収金融を引き受ける銀行は引き受ける対価として
 アレンジメントフィーやシンジケーションフィーと呼ばれる手数料
 を徴求する。
 これは、引受金額の総額に対し1〜2%程度の手数料を貸出し時に徴求する方式による。
 この金額も、一般的には金融情勢次第である。

 3、コベナンツと債務不履行の条件
 コベナンツには財務制限条項とその他のコベナンツがある。
 財務制限条項は、カバーレシオやギアリングを各年度別に(場合に
 よっては半期ごと、四半期ごともある)目標として定めて、借入人
 がこれを下回らないことを誓約するものである。
 その他のコベナンツは積極的に借入人が取るべき行動の約諾
 (“アファーマティブコベナンツ”)と、受動的にしてはならない
 ことの約諾(“ネガティブコベナンツ”)がある。
 アファーマティブコベナンツでは、一般に財務諸表の提出や資金繰
 実績の報告が主たる義務として定められ、ネガティブコベナンツ
 では借入の制限、資産に対する担保設定の禁止や売却の禁止、
 株式の売却の禁止等が約諾される。
 これらのコベナンツの違反は期限の利益喪失(“デフォルト”)の
 要因となる。
 デフォルト条件には、この他、主要な取引契約が解除される等、
 取引に関連した重大的なリスク事項が含められることがある。
 このように契約の諸条件は債務不履行を通じて支配権の移転に
 つながるので、注意深く検討し交渉が行われる。
 日本の銀行は早期デフォルトを避けたいという意向もあり、あえて
 厳しいデフォルト条件の交渉を避けることがあるが、欧米での取引
 では実際に企業価値の劣化をめぐり銀行と株主の支配権の移転の
 時期や条件が厳しく交渉される。
 もっとも、銀行も支配権の移転をすぐに求めるものではない。
 まず、スポンサーである投資ファンドがどこまで会社再建に努力
 するかが交渉の焦点となる。
 銀行から見れば債務不履行の条件は対照会社が危機に陥った場合に
 交渉力を確保しておく手段であるのだ。

 投資ファンドは一般には、追加的な投資負担はコミットしないが、
 簡単に会社を放棄されても銀行としては困るので、企業の支配権の
 移転を武器にして投資ファンドの追加的なコミットを引き出そう
 とするのである。
 日本においては、金融慣行の違いもあり、かつて実際にキャッシュ
 フローファイナンスで債務不履行が起こった事例も少ないので、
 借入人にも銀行にもこれらの支配権の移転をめぐる交渉は軽視され
 がちである。
 しかし、貸手も借手も買収金融の持つ本質的なリスクを考えながら
 慎重に交渉することが必要である。
 次回からは、経営者の雇用契約とインセンティブストラクチャーに
 ついて述べよう。

 今回は 「買収借入契約」 について説明した。
 次回は雇用契約とインセンティブストラクチャーについて説明する。


●ご注意●
この講座は、著書「プライベートエクィティ投資」の要約を掲載 していますので、
無断転載はご遠慮ください。


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