CVC Asia Pacific シニアエグゼクティブ/東洋学園大学客員教授 −添田 眞峰
▼会計デューデリジェンス
前回はビジネスデューデリジェンスについて説明した。
今回は 「会計デューデリジェンス」 について説明する。
【会計デューデリジェンス】
企業会計の一般原則として企業の財務状態及び経営成績に関して
真実な報告を提供することが第一に掲げられている。
会計報告とは、利用者に真実な報告を目的として、財務諸表に
総括することにより、期間利益と財政状態を報告するものである。
ただし、未公開会社や未公開の事業では、制度的に担保された
報告義務がないので、会計処理や会計報告がその企業や事業の
財政状態や経営成績に関し、真実な報告を行っているか原資料に
あたって検証が必要である。
<キャッシュフロー創出能力の検討>
制度会計の目的は、株主に区切られた期間の中での利益を計算し、
配当可能利益を確定することである。しかし、投資ファンドの求める
ものは期間利益ではない。
企業が稼ぎ出すキャッシュフローの能力である。
例えば、減価償却が会計的に適正に処理されていることを確認する
よりも、現実の物理的、経済的な減耗の度合いを知り、いつ設備投資が
必要になるかを知ることである。
土地や建物は実現可能な時価を把握し経営資源の有効利用を考える
ことである。また貸倒引当金や偶発負債は会計処理の妥当性よりも
現実に発生するキャッシュの回収不測額や、請求される金額が
どの程度ありうるかを知ることである。
会計デューデリジェンス(会計DD)では、会計的処理の妥当性
のみならず、現実の経営の中で起こりうるキャッシュフローの
過不足や、キャッシュフローを創造できる潜在的な経営資源を把握
するという観点が必要である。
<会計記録の信頼性の見極めは取引を進める第一歩>
未公開事業は、往々にして会計取引の記録を正確に記帳しておらず、
会計数字に信頼性が欠けることがある。取引の記録の信頼性が
疑われる事業にはそもそも投資できないので、会計DDでは、まず
対象事業や対象企業の中に、継続的に信頼性ある会計情報を
作成できる会計組織や管理体制が整っているかを見極めること
が第一歩である。
一般に会計組織や管理体制が不備な事業は投資対象から外すべき
である。しかし、会計情報が不備な事業が宝の山であることもある。
会計情報組織が不備な投資対象に遭遇したときは、費用対効果に
立ち返り、会計情報は不備でも投資の検討を進める魅力があるか、
何を調べればその魅力を説明しうるかをまず検討し、その後の
取り進めの可否を判断すべきである。
投資ファンドから見た会計DDの目的は、潜在的な事業価値を評価する
ために会計数値が信頼できる手続きで作成されているか、さらに言えば
その事業のEBITDAの実績数値が信頼に足りるかを確認することにある。
時間も費用も制約があるところから、目的志向で、絞られた項目に
精力を傾注すべきである。
必要であれば、会計専門家にこの点に絞って調査をさせるのである。
当然ながら、優先交渉権を取得後取引を完了するまでの間には、
対象事業の会計報告数字の真実性を確認するために公認会計士を
起用してDDを実施する必要がある。
今回は 「会計デューデリジェンス」 について説明した。
次回も会計デューデリジェンスについて、引き続き説明していく。
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この講座は、著書「プライベートエクィティ投資」の要約を掲載
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