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ジャーナリスト和田勉が見るプライベートエクイティ投資業界■□
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日本に根をおろしたPEファンドの略史
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日本におけるPE(プライベート・エクイティ)ファンドの歴史は、およそ10年前
に始まった。この1、2年、景気が安定しているため、実感の記憶は忘却の彼
方にあるかもしれないが、1997、98年のころ、日本はきわめて深刻な金融危
機に見舞われていた。
90年代初頭にバブル経済が崩壊した後、処理を先延ばししてきた不良債
権が異常に積み上がり、それぞれの金融機関の先送り策も次第に尽きてき
たのだった。
そして、“護送船団”とも言われた金融行政の下で、大手金融機関はつぶれ
ない、という神話が崩壊。日本長期信用銀行や山一証券が破綻した。
このとき、多様な投資機会が急増する、と目ざとく理解した人々がいた。
企業の倒産が相次ぐと同時に、銀行の監督下から離れた企業に対する大型
の投資、すなわち企業買収ができる。また、銀行から、担保の不動産付きで
不良債権を買うことができる。
しかも、投資は市場の価格=時価で行われる、と。
彼らは、独自に、あるいは外資系投資家の出先として、投資ファンドを運用
する会社を日本に立ち上げていった。それが、エクイティ投資のバイアウト、
デット投資の不良債権ファンドであり、先に大きなビジネスをつかんだのは
不良債権ファンドに多かった。
外資を中心とする不良債権投資家たちは、金融機関から不良債権を大口で、
大幅に下がっていた時価で買い、担保となっていた不動産を転売や再活用
することによって、大きなリターンを稼いだ。
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┃ 企業再生需要が市場を広げた
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1999、2000年ころになると、エクイティ投資家もビジネス機会が急増した。
米リップルウッドのファンドによる長銀買収を代表例とする、企業再生需要の
投資である。政府でさえも管理下にあった大手銀行へ投資を求めたように、
銀行も融資先だった企業への投資を歓迎した。
歓迎ムードの背景には、社会的・経済的にマイナスの大きい企業破綻をで
きるだけ少なくすることへの期待があった。
企業へ投資したファンドは、いくつかの事例で、そんな期待に応えることに成
功した。財務面と業務面の両方でリストラを断行し、成長力のある企業へと再
生した後、株式上場などでリターンを上げるモデルをいくつも実現して見せたの
だった。
その結果、再生ファンドは一大ブームとなった。2003年には、産業再生機構
という“官製・再生ファンド”が作られたほか、次第に大口の投資機会が減った
不良債権ファンドから再生ファンドへ鞍替えしていく動きも活発だった。
その再生機構が04年暮れから05春にかけて精力的に支援したダイエーの
事例をピークに、ブームは去っていく。
残ったのは地方での再生ファンド。地方銀行などが融資先の支援を、不良債権
の削減とともに、実施するのに貢献している。
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┃ デットからエクイティの時代へ
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デット投資が先行して、再生需要で盛り上がった日本の投資ファンド市場だが、
現在、本来のエクイティ投資を主役として、再編成されつつある。
PEファンドは、もともと破綻企業やその予備軍を対象としているわけではな
く、あくまで財務・業務の改革やグループ再編によって企業価値がある程度大きく
上昇する企業群を狙っているのだから。
それに、日本経済の中での大型企業破綻はほぼなくなった。
エクイティ投資の時代に、そのプレーヤーも増えている。
アドバンテッジパートナーズなど日本のPEファンド専業会社や、リップルウッド
など、もともとのエクイティ投資家が着実に活動継続しているのに加えて、
再生ファンドという名でデット投資をしてきた外資系の投資銀行やファンドなども、
エクイティ投資家へと転進しようとしている。
すでに、普通のPEファンドやプリンシパル投資部門を作り、活動を始めた。
今後、日本のPEファンド市場は、米国や欧州のように、成長・発展していくのだ
ろうか?
日本の再生ファンド・ブームを支えた、デット投資の成功は、それを担った
人材を見てみれば、当然といえば当然のことだった。
多くの場合、破綻したり、他行とのM&Aで消滅したりした大手金融機関から
飛び出した人材がデット投資をする外資系投資銀行・ファンドで活躍したのだか
ら。やはり経験がモノを言ったのだ。
実は、このことが、次のエクイティ投資のステージでは最大の不安要因
なのではないか。
エクイティ投資は、庶民の株式投資と同じく、リターンに上限はない一方で、
元本さえ保証されない不安定さがある。デット投資とは、違う世界だ。
少なくとも、強いエクイティ投資家(投資銀行・ファンド)は、エクイティ投資に
熟練した人材を多く抱えている必要があるだろう。
日本のPEファンド市場の行く末は、それに適応した人材がどれだけ増えるか
にかかっている、と言えよう。
※和田 勉氏略歴
1966年京都府生まれ。
早稲田大学誠治経済学部政治学科卒業後、日本経済新聞社に入社。
産業部や国際部などの記者を経て、1998年から3年間、テレビ東京に
出向し経済部記者を務めた。
2001年からフリーの経済ジャーナリストになる。
著書に「買収ファンド」(2002年、光文社新書)、「企業再生ファンド」(2003年、
光文社新書)、「事業再生ファンド」(2004年、ダイヤモンド社)、「USEN宇野康
秀の挑戦!カリスマはいらない。」(2006年、日経BP社)がある。