CVC Asia Pacific シニアエグゼクティブ/東洋学園大学客員教授 −添田 眞峰
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経済性の判断
前回は投資判断を左右する経営者と株主価値創造の原理について説明
した。今回は 「経済性の判断」 について紹介する。
【経済性の判断】
投資判断は、最終的には、投資が与えられた資本コストに見合う収益を
確保できるかを確認することである。出来上がった投資の仕組みから、
どの程度の投資収益率が上がるか検証し、投資対象が抱えるリスクと
比較考量の上、実行の可否を決定するのである。
投資家が期待する利回りはバイアウト投資であれば30%、企業再生で
あれば40〜50%、ベンチャー投資であればそれ以上の水準である。
バイアウト型の案件であれば、リスクの性格も企業規模も公開企業に
近いので、売手は公開市場の類似会社の実績と株価の関係で価値を
測る。これが売手の売りたい価格の基準となるのである。
株式市場での株価は、市場収益率と個別株式の市場に対するリスク
感応度であるβにより決まる。売手が期待する価格は、株式市場の
平均的収益率とβを加味して、8〜15%程度の割引率をもとに計算
した価格になるだろう。流動性のプレミアムを考慮しても、投資ファンド
が期待する収益率30%にはとても届かない。オークションによる売却
となれば、一般事業会社などの戦略的な買手ははシナジー効果を
加味して、さらに高い価格をオファーするので、ますます投資ファンド
の考える価値と売手の考える価値とに開きが出てくる。売手はときに
事業の規模や潜在力から見て、上場企業と直接比較することが妥当
でないような事業でも、市場と同等な価格を期待するものなので、
そもそも売手と買手の認識の相違は大きい。
価格は安く買えることに越したことはないが、以上のようなことから、
一般的に考えられるような価格水準を越えて買い叩くことはなかなか
難しい。むしろ高値つかみをしないように心がけるべきである。
バイアウト型の取引では、投資収益の向上は、投資価格の多少の
異動よりも、レバレッジ効果と期中のキャッシュフローの向上に、
大きく依存しているのである。
今回は 「
投資の総合的判断(経済性の判断)」 について説明した。
次回はモデルを用いた経済性の検証と、総合的な判断の必要性に
ついて説明する。
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この講座は、著書「プライベートエクィティ投資」の要約を掲載
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