CVC Asia Pacific シニアエグゼクティブ/東洋学園大学客員教授 −添田 眞峰
▼その他のPE取引の仕組み・企業再生型投資
前回は経営破綻企業への投資について説明した。
今回は 「企業再生型投資」 について説明する。
【企業再生型投資】
企業再生型の投資は、破綻懸念先や破綻先事業の再生可能な事業を切り
出して、会社再建の専門経営者を派遣し事業を立て直して投資収益を上げ
る手法である。
事業の経営権を取得し、経営者を派遣して企業価値を創造しようという意味
では、バイアウト型投資の一類型である。
<企業再生のプロセス>
企業再生のプロセスは次のような段階を踏む。
1.運転資金の確保−即ち、まず、止血するまでの期間の運転資金を如何に
確保するかが問題になる。これはDIPファイナンスや、スポンサーになる投資
家が提供することが一般的である。
2.止血−キャッシュフローも赤字を早期に止めることである。
赤字の垂れ流しを放置すれば企業は再生の入り口のも立つことができずに
破産に移行する他はないのである。
3.財務リストラ−即ち、各種の会社整理の手法を駆使し債権者との間で
債務削減に合意して、不要資産の売却などにより財務構造の建て直しを
図ることである。
4.事業再構築−即ち、事業運営の基本を見直し、コストの合理化、価値を
生み出せる事業への経営資源の集中を図り、キャッシュフローの向上を
目指すのである。
このように企業再生の過程で新たな株主あるいは事業の請受人として、
投資を行うことが事業再生投資の典型である。
<投資ファンドと政府系金融の役割>
企業再生投資は一般にリスキーで難しい。
再生のプロセスが1から4に向かうに従い難易度は上がる。
企業にコアのキャッシュフローがあり、コアの事業とは別の領域で問題を
起こしたようなケースでは、止血と、その間の運転資金の供給だけ行えば
自転する可能性が高い。
このような事業はPEにとっては比較的取り組みやすい。
しかし、こういう単純な案件はそう多くないので、PEが対象とする案件はさら
に踏み込んで、財務リストラで債務を削減することによりキャッシュフローを
創り出せるような事業へと広がっていく。
財務リストラの実現のリスクはあるものの、ここまでは計算できるリスクで
ありPEの守備範囲である。
この段階を超えると、企業はキャッシュフローを黒字化し自転させていくため
に抜本的な事業モデルの変更を必要とするが、その成否は一段と不透明に
なる。
経済原理を追求する投資ファンドはリスク、リターンが計算でき、コア事業の
建て直しが高い確度で見えない限り、破綻事業に大規模な資本投下を行う
ことはできない。
従って、この種の事業に対しての投資は、債務免除、DES、公的金融等を
利用してエクイティ投資負担をできるだけ軽減しながら、事業スポンサーへ
の繋ぎを図るような考え方によるのである。
事業スポンサーへの出口を見定めるためにも、事業自体に希少性がある等、
経営資源に魅力がなければPEの投資対象にはならないのである。
一般に、抜本的な事業再構築や事業転換が必要な企業群を再生するか否
かは、倒産に伴う社会的なコストを考え、政府の政策として救済する意義
があるか否かを政治的に判断することである。
民間のリスクリターンの基準にはなかなか乗らない話なのである。
ここに産業再生機構や、日本政策投資銀行等の公的資金が必要となるの
である。
<プレパッケージ型取引>
プレパッケージ取引について再度意義につき触れておきたい。
企業再生型投資がより有効に機能するためには、法的整理手続きに入る
前に、債権者、債務者、投資ファンドとの間で再建計画の大筋を合意し、
スポンサーを決めた上で、迅速に事業の再建に取り掛かることが必要であ
る。
企業価値は法的手続きに入るとともに急速に劣化するので、迅速な取引完
了が求められる。
日本では、民事再生法が成立しプレパッケージ型の企業再生投資を行う
インフラは出来たものの、プレパッケージ取引を行うための障害もある。
技術的には、東ハトのケースで発生したような民事再生手続き申し立て前の
営業譲渡取引の否認、あるいは、不履行のリスクである。
この結果、申し立て後に再度入札が実施され投資価格が高くなるリスクで
ある。
また、取引の現場では、主債権者である銀行との対立から債務者が主債権
者の了解を取り付けずにスポンサーを呼び込もうと意図して、プレパッケージ
型取引を使うことが多い。
結果として債権者と債務者の感情的な対立が増幅されプレパッケージが
機能しないのである。
今後、企業再生型投資がより機能するためには、プレパッケージ型取引が
より透明、客観的に使える環境整備が必要である。
今回は 「企業再生型投資」
について説明した。、
次回は企業解体型投資(ハゲタカ型)について詳しく述べよう。
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